想像以上に定型化している交通事故の処理

質問

当社の従業員が、社有車を運転中、大きな幹線道路(優先道路)を直進していたら、交差道路から一時停止を無視して進入してきた相手方車両と出会い頭で衝突する事故が発生しました。
この事故により、社有車が損傷すると共に、当社従業員は怪我をしました。
相手方は「貴社側にも前方不注意があった」として、過失割合を5対5と主張しているようです。
納得がいかないですが、交通事故事件の処理の実際ってどんなものなんでしょうか?

実は、交通事故の解決プロセスは、裁判所の実務によって高度に「マニュアル化」されています。

1 過失割合はマニュアル(認定基準)で決まる

あまり一般には知られていませんが、交通事故の過失割合には、裁判所や実務家が参照する「別冊判例タイムズ(東京地裁民事交通訴訟研究会編)」という事実上のマニュアル本が存在します(書店で売っています。)。この本では、過去の膨大な裁判例に基づいた基本の過失割合が定められています。
本件のように、「優先道路を走る直進車」と「一時停止がある交差点から進入した車」の事故であれば、基本の過失割合は「直進車10:一時停止無視車90」とされるのが一般的です。
したがって、相手方が「前方不注意があるから50:50だ」と主張しても、この基準から大きく外れることはまずありません。但し、脇見運転や著しい速度超過などの「修正要素」があれば、5~10%程度の幅で調整されますが、極端に変更されることはまずないです。
以上、マニュアルから外れた独自の主張を繰り返すことに実務上の意味は無いというのが現実です。

2 損害賠償の項目も定型化されている

日本で発生する交通事故は非常に多いため、どのような損害が認められるかという「損害項目」も定型化されています。
請求漏れを防ぐためには、項目一覧を見ながら、そのような損害が無いか確認し、あればその裏付けとなる証拠(領収書や写真など)を収集するというのが流れです。
たとえば、物的損害(物損)でいえば、車両の修理費、代車費用、車両積荷の破損、買い替えが必要な場合の登録諸費用、営業車両であれば車が使えないことで生じた「休車損害」が請求対象となります。それらの有無を確認し、証拠を用意するのです。

3 「マニュアル外」の特殊な損害への対応

このように、交通事故の処理はほぼ定型化されていますが、すべてが網羅されているわけではありません。例えば、後遺障害が残った場合や、極めて特殊な事故態様の場合は、個別的な検討が必要であり、類似の裁判例を検索して、検討する必要があります。

4 保険会社の提示額には注意が必要

注意すべきは、相手方保険会社の提示金額です。特に人身損害の慰謝料については、少額の「任意保険基準」の計算であることが多く、裁判所基準と比較すると極めて低額(半額以下になることもあります。)です。

5 適切な解決のために

交通事故の対応では、まずは「判例タイムズ」等のマニュアルに基づいた客観的な立ち位置を把握することが重要です。相手方の根拠なき主張に惑わされることなく、適切な証拠を集め、裁判所基準での解決を目指すべきです。
損害が大きい場合は、示談書にサインする前に一度弁護士に相談し、請求方針が妥当かどうかを確認することをお勧めします。

月刊東海財界2026年2月号掲載

※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明

弁護士 片岡 憲明

弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)

1977年岐阜県大垣市生まれ。私立東海高校、東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所の代表社員。

離婚・相続・交通事故・企業法務・労働事件・特許訴訟・倒産事件等の多種多様な案件に携わった経験を持つ。登録1年目から保険会社の依頼を受け、交通事故事件を多数解決してきた。

愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。

常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。

電話で問い合わせ052-231-1706
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